象徴四四 欺きてテュポンはオシリスを殺めてはその四肢をば散らせり、然し名高きイシスこそそれらを集めたる。



シリアにアドニスのあり ギリシアにはディオニュソスあり

エジプトにはオシリスのありて そは他ならぬ太陽の叡智

妹妻母をば兼ねたるイシスによりて

テュポンの切り刻みしその四肢をば拾遺されける

然れども 失われし男根のみは波に消ゆ

硫黄は自らを生み出すものをば失ふものなり


 オシリスの寓意については、我々の象形寓意に関する書の第一巻がすでに究極の源泉まで辿り切っている。ここでその内容を繰り返すことは憚るけれども、これに平行する釈義を設けることで、いにしえの詩家らによって見事に想起され唱い伝えられてきたことを古代化学の領域に位置づけることにしよう。故にオシリスが神であるとかエジプトの王だとかいう説にもはや我々は満足しない。そのどちらに対しても、幾つかの例証によって妥当な反論が可能であって、それは確かに《太陽》ではあるが、《哲学の太陽》なのである。実際オシリスという神名は太陽に関連があるのだが、卑俗のことしか知らぬ俗衆たちは太陽について、世界に光をもたらすものとしか認識しようとしないのである。

 《哲学の太陽》という名称は現世的な太陽の名を借りてこそいるものの、それは「天空の太陽から降り注ぐ」という自然の特質を内に秘めつつ、その特性に調和するものすべてを示しているのである。だから《太陽(ソル)》はオシリス、ディオニュソス、バッカス、ユピテル、マルス、アドニス、オイディプス、ペルセウス、アキレウス、トリプトレムス、ペロプス、ヒポメネス、ポオリュデウケースである。対する《月(ルナ)》はイシス、ユーノー、ウェヌス=オイディプスの母、ダナエー、デイダメイア、アタランテー、ヘレナであり、ラトナ、セメレ、ラダ、アンティオペ、タレイアもまたこれに並ぶ。これらはすべては化合物の一部をなし、未だ術を施されぬ《石》と呼ばれ、あらゆる金属種に通ずる真の名として《マグネシア》と呼ばれている。作業を経た《石》はオルクス、ピュロス、あるいはアポロン、アスクレピオスと呼ばれるものと成る。

 これに添加される物質はテュポン、ピュトン、猪である。術師はヘラクレスでありユリシーズでありイアソンあるいはテセウス、ペイリトオスであるから、術者の被る艱難危難は計り知れぬものとなる。我々はヘラクレスの辛苦、ユリシーズのあやまち、イアソンの瀕した危機、テセウスの尽力やペイリトオスの呵責などを身を以て知ることとなる。これらを語り尽くすには膨大な著作を要するであろうが、斯術に関する著述にはいずれの頁にもサトゥルヌス、メルクリウス、そしてウルカヌスという名が現れている。サトゥルヌスは万物の父祖であり何者すらも影響することなき太初である。メルクリウスとは質量あるいは形相である。ウルカヌスは動因である。

 《太陽(ソル)》は妹たる《月(ルナ)》をばその妻として娶るが、これはユピテルがユーノーを、サトゥルヌスがレアを、オシリスがイシスを妻にすると同じである。そして父ユピテルの雷に焼かれた母セメレからはディオニュソスが生まれ、さらにユピテルの大腿のなかで円熟に達する運びとなる。コロニスを母とするアスクレピオスもまた同様である。アスクレピオスは人々に医術を広めることになるが、オシリスやトリプトレムスは穀物とその農法の導き手であり、成人したディオニュソスは葡萄酒の効能を人々に示しそれはインドにまで伝播した。(太陽と月の子を)ギリシア人はディオニュソス、ラテン人はバッカス、エジプト人はオシリス、そしてシリア人はアドニスと呼んだわけである。しかし、子たるオイディプスは父を殺して母と婚姻を結ぶのであり、ペルセウスは祖父を殺し、ティポンは実の兄弟を殺し、そして猪はアドニスを殺し、トリプトレムスの乳母ケレスはエレウシスを殺めるのである。さらにヒポメネスは黄金の林檎の力を借りてアタランテーとの競走に勝利するのであるが、ペロプスの父タンタロスは戦車競走に勝利してヒポダメイアを手に入れる。四肢を切り刻まれたオシリスは母であり妹であり妻でもあるイシスに再び蘇生されたし、幼少のペロプスは煮られ炊かれして肩をケレスに喰われたが再び命を取り戻しては象牙の肩が付与された。アキレウスその母テティスに、トリプトレムスは乳母ケレスによって夜には炭火にかけられ昼には乳汁を与えられた。

 トロイア戦役の原因はアキレウスとヘレナであるが、女は駆動因として転がる玉を据え男は作用因として突き動かしたのである。不和(エリス)の林檎はアキレウスの両親ペレウスとテティスの婚姻に投げつけられたものであり、これがヘレナ強奪の端緒となったのであるから、いわばヘレナは不和(エリス)の林檎を卵として産まれたといえよう。こうした故事の人々すべてが生きた人間であったと考えれば、アルゴ探検隊に参加したポリュデウケースはトロイア戦役の始まる少なくとも五十年前には生きていたことになる。ポリュデウケースは件のヘレナと同じひとつの卵から生まれたのであるから、パリスに掠奪された頃のヘレナはすでに老女であったとせねばなるまい。さらに魔女メデイアがアキレウスと結婚できるならば、もはやアキレウスはエリュシオン郷にありメデイアは歯も抜け落ちた老婆になっていることになるが、メデイアには若さを再生する術があり、魔女がこれをイアソンの父アイソンにも施しているのは、ケレスがペロプスを再生させたと同様である。メデイアが「二重に若返った者」と呼ばれる所以である。

 ペルセウスは女神アテナから飛馬を譲り受けこれに報いてメデューザの頭を奉じた。女神アテナはメルクリウスから半月刀(シミター)を貰い受けているが、他の神々からも様々な武具を与っている。ケレスはトリプトレムスに飛竜の牽く戦車を与えた。ユピテルの頭部から女神アテナが生じ《太陽(ソル)》とウェヌスが接合したそのときにはロドスに黄金の雨が降ったのであるが、黄金の雨の姿となったユピテルはダナエーと交わった。同じように白鳥の姿でレダと接触し、郭公の姿でユーノーと、雄牛の姿でエウロペと、サテュロスの姿でアンティオペーと交わっている。こうした故事すべてには調和一致が存するのである。

 
 
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