象徴三三 両性具有(ヘルマフロディト)、闇のなかに死にたるごとくに横たはりて火を欲す。



見よそなはる湿気が取り去られ

双頭の両性具有(ヘルマフロディト)は空死(そらじに)しをる

闇夜に姿隠すとき その者 火をば欲したる

火を与えよ さすれば命はすなはち戻る

火中にこそ石のすべての力は隠されている

硫黄の力はすべて金の中に 水銀の力はすべて銀の中に


*冬が到来すると蛙や燕は死んだように水底にうずくまるが、太陽の熱が施される春になれば感覚も挙動もとりもどし鋭敏な生命の行動を再開する。自然界の注目に値する現象である。冬に水中からこれらを捕獲し、暖房であたためれば、すぐに夏の活発さを取り戻す。外部から熱さえ与えられれば、体内の熱は励起され行動を駆り立てるということがわかる。

 賢者らの語る《両性具有(ヘルマフロディト)》も同様であり、暗闇の中に死んだように横たわりつつ火の熱を欲している。《両性具有(ヘルマフロディト)》が横臥する厳冬の夜、この暗き寒さは、未だ《黒鬱》の状態にとどまっているということを示す《冷》の徴である。しかしやがて激甚なる炎によって《白明》が、さらに強き火の作用によって《赤熱》がもたらされるのである。「火熱なくばなにものも生起せず」と『賢者の一群』でボディリュスは述べている。だがあまりに熱い風呂は危険であるし冷たすぎるのも浸るに耐えぬ。ただ、ほどよく穏やかな温度の風呂こそが健康に資するのである。ボネリュスもまた以下のように述べている。「あらゆるものは神意のもとに生き、自身の転化に於いて死す。幾夜をこえて保持さるとはいえ湿性の除かれた様相は丁度死せるがごとくに見ゆるものである。このときこそ、肉体の霊気は刷新されるために火を求めている。墓のなかにて物質が仮死状態になれば、神はこれに肉体と魂を戻し、あらゆる不完全さから解き放ってこれを補強し完全化する。故に怖れることなく火に焼べるべし」火はすべてを破壊する力を有しながらも、建設的な作用をもたらすこともあり、奪った生のかわりに新しい命を与える力をも持っている。

 炎に生命を取り戻し、灰から蘇るのはただ不死鳥だけである。そして、これが燃焼のなかに命をみいだすものであるということは哲学者だけが知っていることであって、他の者どもにとっては所詮、実体が確認されも捕獲されもしない伝説の鳥にすぎない。しかし、この不死鳥というものは、まさに資質の混淆を秘めた《両性具有(ヘルマフロディト)》であり、哲学者らはここに男性原理と女性原理の、熱を介した変容をみる。そのようにして女性は男性に変わるのである。哲学の作業に於いてかようなことが生起するのは驚くには当たらないのであるが、我々が事実として信ずる限り、性をひるがえした人々の実例を示すこともできる。*ポンタヌスや*アウソニウスの記述に倣って詩人たちは*セネアや*イーピノエーや*テイレシアースの性の変化に言及している。また*リキニウス・クラッススから*カッシウス・ロンギヌスまでの執政時代には、ひとりの乙女が少年に変じたことがあったという。さらに*リキニウス・ミュティアヌスの出会ったアリストンテムという男は、元々アリストサエという名の女性であり、これは結婚の直後に髭を生じ成人男性の様相を呈して夫に変じたという談がプリニウスに引かれている。プリニウス自身はアフリカで、ティスドリタヌムの市民ルキウス・コッシキウスという人物に会い、これは婚礼の日に男に変成した人物であるという。

 これらはありうべき真実であり、機会さえあれば他にも多くの事例から証される事象であろう。男性よりもずっと《冷》性である女性は、その深奥に性的器官を秘め、これが熱の増加によって肉体から発現される。女が男に変成して生まれるか、あるいは内に男を秘めたまま女として発現するか。そのような、男を生むか女を生むかの選択を、自然が訥々として明確にしようとしない理由がこの点にある。さらに、年齢とともに増す熱量と運動が、内部に秘められた男性原理を発現させるのである。これと同様に哲学者らも、熱の増加によって女を男に変成する。かくして《両性具有(ヘルマフロディト)》は女の性を失って威厳あふれる頑健な男となり、もはや繊細な柔らかさや軽さなどはなくなるのである。かような訳で、我々は《両性具有(ヘルマフロディト)》から変じた気高い発育をみることがあるのである。

 両性具有(ふたなり)が子を成すことのできるよう、より完全な体になるため、必要とされる陰茎を開通させ女性に関連する部位を閉ざすということもある。こうした部分的な手術は、名高いボローニャの外科医*ガスパール・タリアコッツィによってなされたものである。だが哲学者らはこうした手ずからの作業は必要とはしない。《月の冷気と湿気》が現れたとき賢者はそれを女性と呼び、《太陽の熱気と乾気》が現れれば、それは男性とされるのである。これら四資質のすべてが共に在るとき、それは賢者のレビスすなわち《両性具有(ヘルマフロディト)》である。かように女性、《冷気》《湿気》からの転換はすでに述べたように、ただ唯、火の熱によって男性へと到ること容易である。熱は湿気の余剰を分離解消し、哲学の物質を理想的な状態にする。それがまさに《ティンクトゥラ》なのである。

 
 
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